日本一の焼肉店 スタッフインタビュー

「大統領が来ても俺は動じない」前進を止めないからこそ辿り着いた“日本一の焼肉”

幸田 連太郎 [写] / 宮澤 悠馬 [著]

メディアでは語られない“マコさん”の本音。

-- 日本一の呼び声が高いマコさんがオススメする、一番美味しいお肉の食べ方はありますか?

そんなもの無いよ。だってみんなそれぞれ味の好みは違うじゃない。よく焼いた肉が好きな人、レアなお肉が良いって人、脂身が苦手な人もいれば、大好きだっていう人もいる。

結局は自分の好みに合った食べ方が一番美味しいわけよ。これは間違い無いね。

よくウチのイチオシ商品はホルモンだけって勘違いしているお客さんが多いんだけど、スタミナ苑はホルモンだけじゃないよ。

タン、カルビ、ハラミ、ミノ…もっといえばサラダだって超一流の味だからね。10人いたら10人に「美味い!」って言ってもらえるよう最高の食材に最高の下処理をしているわけだから当然だよ。食べてもらえればわかる。

-- その最高の下処理というのは一体どんなものですか?

いやぁ、何も特別なことはやっちゃいないよ。当たり前のことを当たり前にやっているだけ。

例えば有名だけど、レバ-の仕込みをするときは、舌触りの悪い部分は全部捨てる。これをするだけで、食感がガラッと変わって味の印象が全然違うんだ。でもこれって、なにも特別なことじゃないだろ?

特別な包丁さばきもいらないし、専門的な知識も全く必要ない。すごくシンプルなことだ。でもみんな面倒だからやろうとしない。ウチはそれをやるからお客さんに自信を持って最高に美味いって言えるんだ。

当たり前のことを当たり前にやる。それだけだよ。

-- なるほど。マコさんはそういった細部にも絶対に手を抜かないですよね。正直なところ、楽したいとか思ったことはないんですか?

そりゃ思うに決まってる。人間なんてのは甘えて楽をしたがる生き物なんだよ。誰でもそう。みんなそうよ。人が見ていないと手を抜く。俺だってもう年だし、気を抜くとサボろうとしちゃう。

でもそれじゃダメでしょ。お客さんに喜んでもらうためには、常に最高のものを提供し続けないと。だからどんなに些細なことでも絶対に手を抜いちゃいけない。

手を抜けばお客さんは必ず気付くからね。そんな失礼なこと、俺にはできない。なにより俺は、「美味い!」って言ってくれるお客さんの笑顔が大好きなんだ。愛情を持っていれば、当然のことさ。

-- 愛情というのは、お肉への愛情ですか?

いや、お客さんへの愛情だよ。俺はいつもスタッフやアルバイトにこうやって伝えている。

「お客さんを恋人だと思え」って。

誰だって恋人のことは幸せにしてあげたいだろ?それと同じ。お客さんを恋人だと思えば、自然に接客態度も変わるし、お肉へのこだわりも生まれる。

恋人に不味い料理を食わせようなんて奴はいないだろうからな(笑) だから俺は大変なことも我慢して続けられる。愛情だよ愛情。

-- なるほど。愛情があるからこそ手を抜かずに頑張れるということですね。その考えはいつから持っていたのですか?

いつからだろうね。覚えてないよ。ただ眼の前のことを頑張っていたら、自然とそういう考えになっただけ。

俺は見ての通り右手が無い。2歳の頃に実家のミンチ機に巻き込まれて失ったからね。それからずっと周りには「できないことが当然」と思われてきた。俺はそうは思っちゃいなかったけどね。

できないと諦めるんじゃなく、どうしたらできるかをいつも考えるようにした。諦めるのは簡単だろ?

だから、とにかくがむしゃらに、ただ目の前のことを頑張るしかなかった。そうやって周りに負けないように頑張っているうちにだんだんとお客さんが喜んでくれるようになったんだ。それが嬉しくて、次第に愛情が生まれたのかもしれないね。

-- すごい精神力ですね。それだけのハンディキャップを背負ったら、諦めてしまいませんか?

そんなのクヨクヨしたって右手が戻ってくるわけでもないだろ?やっちゃったものはしょうがないんだから、今自分にできることをやらないと。むしろ右手を失ってなかったら、ここまでこれなかったとすら思ってるよ。人にあるものが無い分、人一倍努力できるようになったから。

例えば、俺は今だって仕込みをしている間や休みの日にyoutubeで朗読を聞いたり、ニュ-スを見たりする。そうやって知識をつけることを俺は怠らない。勉強だよ。

-- そうなんですか!? なぜこれだけ成功を収めたあとも、勉強するのでしょうか?

だって勉強して知識をつけないと、人と話ができないだろ?ウチにはいろんな人が来るんだから。芸能人も来るし、政界のお偉いさん。総理大臣だって来る。

普通の人は店に総理大臣が来たら慌てちゃうだろ?でも俺は大丈夫だった。毎日仕事では絶対に手を抜かないし、誰とでも話ができるように勉強を欠かさないからね。

ましてやウチは予約なんか取ってないんだから、毎日想定外の出来事が起きる。他の人達よりも何倍も小さな積み重ねをしていないと。

普通の人はそんなことしないだろ?家に帰ったらお笑いのテレビを見たり、ゲ-ムをやったりする。でも俺はその時間を勉強に費やしている。テレビなんて見ないし、ゲ-ムなんてやったことすらないからね。だから誰が来ても動じない。

-- 総理大臣にも動じないのはすごいですね…

商売ってそういうもんなんだよ。俺がお金のことばかり考えていたら、きっとダメだったろうね。有名人にだけ特別な対応をして、一般のお客さんはおざなりにする。そんな対応をしちゃうだろ?

でも、そんなのは絶対にダメなんだよ。愛情を持って本当にお客さんを喜ばせないと。俺にとっては、1回きりの有名人よりも、月に2回来る常連客の方が何倍も大切だから。

こうやって商売をしていけば不思議とお金がついてくる。面白いよね。お金ってのはやることをやっていれば勝手に生まれるんだから。

どうやったらよく売れるとか、こうやったら効率が良いとか、そういうのも必要かもしれないが、もっと大事なことがある。「相手を思いやる気持ち」だよ。

結局商売なんてのは人と人の繋がりだからね。気持ち、気遣い、気分…人ってのはそういった「気」でできているんだ。自分だけいいやとならず、相手の気持ちを考えてやらないと。これが大事だね。

-- 自分が楽をしたり、お金を儲けることだけを考えてはいけないということですか?

いや、そうじゃないよ。別に楽をしたり儲けたりすることが悪いってわけじゃない。実際に、本当のお金持ちは自分では働かないからね。何千という社員を雇って代わりに働かせるんだ。自分は豪華な料理を食べたり仲間とゴルフを楽しんだりする。

それはそれでいいんだよ。一つのやり方だろうからね。でも俺はその方法を知らない。そういうタイプじゃないんだ。

ここで働き始めてから、俺はずっと自分の手を使って肉とお客さんに向き合ってきた。それで成功したし、俺はこのやり方が正しいと確信しているよ。

-- まさに職人…これだけのこだわりがあるから日本一美味しいのですね。納得です。スタミナ苑二店舗目を出さないのも、そういった考え方があるからなのでしょうか?

第二店舗なんて愚の骨頂だね。お店を増やしたところで、一体誰がそこをやるのさ?

俺もスタッフも、一人しかいない。俺らが作った肉を食べたくてスタミナ苑に行って、よその誰かが作った肉を食べるお客さんが可哀想だよ。それこそお金儲けしか考えていない発想にしか思えないね。

お客さんを本当に喜ばせたいから、俺はこの「スタミナ苑」だけで働くんだ。これまでも、そしてこれからもね。

-- 本当にその通りですね。いやぁ、貴重なお話ありがとうございました。では最後にお聞きしたいのですが、このスタミナ苑を今後どれくらい続けていきたいと考えていますか?

いつまでだろうね?何十年も働いてきて、足もだいぶ悪くなった。いつまで持つかわからないし。こればっかりは流れに任せるしかないな。

予測のしようが無いし。とにかく今を一生懸命やっていくことだけを考えるよ。いつまでやっていけるのかを知っているのは天だけ。

「人事を尽くして天命を待つ」

一生懸命やって、あとは天に任せる。わかるのは神様だけさ。だからみんなも、俺が働けている間に最高の肉を食べておいてくれよ。